- 熟成が進む要因「メイラード反応」の解説
- 保管温度が高く、保管期間が長いほど熟成は進む
- 保管場所によっても熟成具合は変わる
- 熟成しやすいお酒の特徴まとめ
- まとめ
- 「楽しい日本酒のテイスティング講座」の目次
みなさんこんにちは。
日本酒お色の関係の最終項、イエローの日本酒について解説していきます。
ここまでに紹介したお酒のポイントはこちら。
透明な日本酒は活性炭処理をしているか
緑の日本酒はフレッシュか
今回は「熟成」にフォーカスすることになる黄色について。
熟成が最も進む要因は以下の3つが挙げられます。
保管温度
保管期間
保管場所
「保管」というキーワードは、お酒ができた後の外部要因ですが、お酒を製造するための設計図を書く時点で熟成が進みづらい酒質に設計することもできます。
熟成に関与する反応も紹介しながらイエローの日本酒について解説していきましょう。
熟成が進む要因「メイラード反応」の解説
グルコースやオリゴ糖などの還元糖とアミノ化合物が反応して、着色物質の「メラノイジン」や苦味や香ばしい香りを呈する「ソトロン」を生成する反応です。
複雑なので、画像を見てなんとなく頭に入れてみて下さい。
保管温度が高く、保管期間が長いほど熟成は進む
半年から1年間熟成させるためには、10〜20度で保管したほうが良いとされています。
熟成速度は10度上がると2倍になるため、早く熟成させたい場合は温度が高い場所で保管することが良いでしょう。
ただし、温度が高い状態で保管することで火落ちなどのデメリットが出てくる可能性もあるため注意してください。
つまり、「温度が高いほど進みやすい」ことを覚えておけば問題ありません。
自宅で日本酒を保管することもあると思いますが、なるべく「一定の温度」で保管するほうが良いでしょう。
また一般的な話ですが、保管期間が長くなるほど熟成も進みやすくなります。
保管場所によっても熟成具合は変わる
蔵がお酒を出荷するまでの間、瓶に入れて保管する「瓶貯蔵」と仕込みとは別の保管用のタンクで貯蔵する「タンク貯蔵」があります。
10度以上のタンクで貯蔵されるお酒は、「本醸造酒」や「普通酒」などの手頃に購入しやすい製品が多く、吟醸酒などは低温で瓶貯蔵しています。
タンク貯蔵を行うと、酸素に触れる面積が大きくなるため香りや各種成分が酸化し、味わいに変化が起きやすくなります。
「秋あがり」などもタンク貯蔵を行う蔵が多いですね。
熟成しやすいお酒の特徴まとめ
先程ご紹介したのは、外部要因による熟成具合の変化についてでした。
しかし、外部要因より重要なのは、中身の日本酒の酒質によるものです。
熟成しやすい日本酒の特徴をまとめましたので1つずつご覧ください。
糖分が多い
糖分量が多いと熟成が進みやすいのはメイラード反応のきっかけとなる物質だからです。
正式には還元糖が反応していきますのでグルコースやオリゴ糖などの二糖類が多いと熟成しやすくなります。
糖類を残しやすい状態にするために必要な造り手目線の視点をお伝えします。
1 米をたくさん溶かすこと
お米には柔らかいお米と硬いお米があります。
硬いお米はタンクに投入しても中々溶けないですが、柔らかいお米はどんどん溶けていきます。
柔らかいお米でも、蒸し米をしっかり冷やして硬くすることで溶けづらくすることもできます。
つまり、その逆の作業を行えばよいということです。
お米を投入するタイミングは、基本的に3段仕込みのときだけです。
仕込み温度は蔵がそれぞれ厳格に決めていて、「水温・品温」の要素が絡むことで蒸米の温度を決定していきます。
蒸し米をなるべく高い温度で入れるために、水温や品温を下げておく蔵もあります。
2 酒質設計の時点で甘めに搾る
3段仕込み終了後、約30日の発酵期間を経て搾るのが大吟醸クラスです。
搾るときのアルコール度や日本酒度を、製造計画の段階で予め決めておきます。
その数値を逆算して、毎日行う分析を元にゴールに近づけていくのです。
ゴールの日本酒度をマイナス寄りに設定することで日本酒中の甘味を残すことが出来るようになります。
3 デンプン分解酵素を作りやすい種麹を選択する
先程は仕込み中と、酒質設計から逆算してお伝えしました。
今度は作業工程中から。
麹を作る作業があります。
その中で菌を生やすために麹菌をふりかけるのですが、麹菌にも沢山の種類があり、それぞれ性格が異なるんです。
ちなみに麹の役割のひとつは「発酵出来る状態まで米を分解する」ことです。
詳しくは12.日本酒歴長い人も実はわかってない、酵母や麹の本当の話に詳細を記載していますのでご覧くださいね。
上記を振り返ってくださった方はわかったかと思いますが、麹が持つ分解酵素の中に「α-アミラーゼ」や「グルコアミラーゼ」が存在しています。
これらの酵素をたくさん作ってくれる種麹を選択することで、甘味を残しやすい酒質に出来る可能性があります。
甘味を沢山作っても、その甘味を全て酵母が発酵するためのガソリンとして使ってしまえば残ることはありません。
発酵力の弱い酵母をを用いることで、甘味が残る可能性は高くなります。
これらの酵素をよく作る種麹を紹介します。
白夜
HI-G
他にも、種麹メーカーや県の技術センターで開発された菌はたくさん存在します
4 上槽前の四段をかける
30日の発酵が終わりに近づいた頃、蔵は上槽というお酒を搾ることを想定しながら日々の分析を行います。
終盤、目標とするゴールの分析値に近づいているか慎重に検討します。
途中で思い通りに発酵が進まず、甘味を残さなければならないときに「4段法」を用いることで甘味を残していきます。
4段法にはいくつか種類があります。
蒸米四段
もち四段
酵素材添加
などです。
蒸し米をタンクに入れて甘味を残したり、酵素剤でお米をさらに溶かして甘味をもたせたりしています。
造り手としては発酵がうまく進まずに4段を行うことはしたくないので、醪の前半からしっかりとチェックしています。
アミノ酸度が高い
熟成しやすいお酒の特徴の2つめ。
アミノ酸度を高くすることも、メイラード反応を進める要因のひとつになります。
アミノ酸を高める方法をここでも簡単にご紹介していきます。
1 精米歩合を高くする
原料の性質による要因です。
米の外側にはタンパク質が多く含まれているため、米を削るほど炭水化物が残りやすくなります。
玄米の状態で約8%程度のタンパク質が含まれ、50%まで削ることで2〜3%まで少なくなります。
これらの性質があるからこそ、大吟醸などのお米を沢山削ったお酒の味わいはキレイになるのですね。
2 種麹をタンパク質分解酵素を出しやすいものを使用する
上部でもデンプン分解酵素について解説したので簡単に。
さきほどはデンプンを沢山作る種麹についてでしたが、タンパク質分解酵素を沢山作る種麹も存在します。
業界内では「アミノ酸=雑味で良くない」という認識があるので必要以上に作る必要は無いと考えられがちです。
そのためタンパク質分解酵素をたくさん作るようなもやしは見たことがありません。
通常の仕込みで使用するような種麹はしっかりとタンパク質分解酵素を作りますので、精米歩合の高さとリンクしやすい特徴です。
3 発酵温度を高くする
発酵温度を高くすると酵母の活動が活発になります。
酵母を純粋培養するときは、30〜33度の間で48時間程度培養することが多くなっています。
そのため、最も酵母を発酵させるためには30度近辺で保つのが一番です。
しかし醪を30度で発酵させてしまうと雑菌汚染の原因になることから長期低温発酵にしています。
醪では吟醸クラスで低くて5度、高くても10度近辺で発酵させ、純米クラスでは最高品温を15度前後に保ちます。
15度で発酵させることで発酵が旺盛になり、酵母が代謝することでアミノ酸度も増加傾向にあります。
4 古いお米を使う
5 洗米を雑に行う
こんなことを行う蔵は聞いたことがありません。
なぜなら良い蒸し米に仕上げることがとても大切だからです。
洗米の目的は米に付着している糠を丁寧に取り除いてあげることです。
この糠が残っているとタンパク質増加の原因になりえるので、キレイに米を洗います。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
イエロー=熟成し始めている日本酒。
または糖類やアミノ酸量が多いタイプであることを解説していきました。
熟成の反応として代表的な「メイラード反応」。
反応は複雑ですが、まとめると単純でした。
その他にも、貯蔵温度や期間によって大きく熟成スピードは変わります。
このような外部要因もあれば、酒造りの段階から色づきやすくなるタイプもあるということですね。
色に関する解説はココまでにします。
次は「香り」について。
日本酒に関する代表的な香りたちをひとつずつ解説していきます。
お楽しみにしていてください!
「楽しい日本酒のテイスティング講座」の目次
日本酒の発酵経路を解説!デンプンから何が出来る??
日本酒の分析値が果たす役割〜ラベルには書かれない「アミノ酸度」がとても大切〜
日本酒と色の関係〜焼き肉と原理は一緒〜
「透明の日本酒」〜蔵人の怒りから大発見が生まれた!?〜
「緑色の日本酒」〜フレッシュなお酒であるほどグリーンに〜
「黄色の日本酒」〜熟成の進行具合〜(←イマココ)
日本酒と香りについて〜人は約400種類の香りを嗅ぎ分けられる!〜
「フルーティーな香りの日本酒」〜ベースはリンゴとバナナ。あとは何を足す?〜
「清涼感があってスッキリとする日本酒」〜ヨーグルトや青竹も爽やかな印象を与えます〜
「ずっしり落ち着いた日本酒」〜油性マジックや蜜蝋の香り?〜
「香ばしい熟成感のある日本酒」〜飴またはカラメル。ときどき紹興酒〜
お米から作っているんだから!「米の香りのする日本酒」
この香りがしたらアウト!「質が良いとは言いづらい日本酒」に共通する香りたち
日本酒の味わいについて〜人は7個の味しか感じられません〜
「日本酒と甘味」〜脳が自然と欲する味〜
「日本酒とうま味」〜うま味も酵母が作る。深みと重みを与える味〜 \
「日本酒と酸味」〜爽やかな酸とまろやかな酸〜
「日本酒と苦味」〜時には深み、時には刺激〜
「日本酒と渋味」〜ポリフェノールはほとんどありませんが、渋いです〜
「日本酒と刺激」〜アルコール?酸味?刺激を与える要素たち〜
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