日本酒は、お刺身や焼き魚、煮物などの和食に合うもの。という従来のイメージから少しづつ変わってきています。最近では、フレンチや中華、ベトナム料理など、他国の料理とのペアリングを楽しめるお店も増えてきました。自宅で日本酒を楽しむときも、料理とのペアリングを意識すると、より美味しく日本酒を味わえますよ。
ペアリングとは?
“ペアリング”とは、料理とお酒がお互いの長所をグッと引き立てる組み合わせのこと。似た言葉では、フランス語の”マリアージュ”があります。マリアージュは、ワインと料理を合わせるときに使われる言葉で、違う味わいのワインと料理が重なり合うことで、まったく別の味わいが生まれることを意味しています。
お酒を料理に合わせて、ぴったりのペアリングやマリアージュを見つけることで、食事の楽しみが何倍にも広がります。ただし、「◯◯系の料理と辛口の酒を合わせればペアリングできる」といった、なんとなくの組み合わせをしていては、あまりいいペアリングは見つけられないでしょう。ペアリングが成功するための基礎知識やちょっとしたコツを伝授したいと思います。
日本酒とのペアリングのコツ
まず知っておきたいのは、味覚の基本。味は、鼻から感じる香りの要素と舌で感じる味覚、口に含んだときの食感(テクスチャー)、温度感覚、辛いものを食べたときのヒリヒリするような刺激など、さまざまな要素によって構成されます。
特に、舌で感じる味わいは、甘味、うま味、塩味、酸味、苦味の五味に分けられます。この五味を基本として、濃淡の違いによってさまざまな味を感じることができるのです。味を感じるうえで大事なのは、脳が本能的に「美味しい」と感じて喜ぶ味と、拒絶する味があるということです。
たとえば、甘味。砂糖などの糖分を摂ると、脳は身体に必要なエネルギーと捉え、美味しいという心地よい感覚が生じさせます。一方、酸味や苦味は毒と捉えられ、本能的に体が拒否する味なのです。赤ちゃんや動物に酸っぱいものや苦いものを与えると、嫌な顔をしたり吐き出したりするのは、そうした本能の働きによるものです。
苦味や酸味は、成長してさまざまな味を経験していくうちに、危険がないものもあることが分かり、受け入れられるようになっていきます。また、苦味や酸味は、料理やお酒にコクや厚みをもたらす大切な要素。料理とお酒の両方の五味のバランスを考え、整えることで、美味しさを引き出すことができます。五味の感じ方が、ペアリングにおいて、大きなポイントとなります。
具体的なペアリングのコツを紹介していきます。
味わいの濃淡を合わせる
料理は、素材そのものの味や調味料、調理の手法によって味の濃さが決まります。たっぷりと香辛料を使った麻婆豆腐やデミグラスソースのかかったビーフシチューといった濃厚な料理と、白身魚にハーブを散らしたカルパッチョなどの淡麗な味わいの料理では、当然合う日本酒が違います。
では、日本酒の味の濃淡は、どこで決まるでしょうか? たとえば、アミノ酸度の高い低精白の純米酒や熟成のかかったもの、アルコール度数の高い日本酒は濃厚に感じられます。一方、お米を50%以下に削った高精白の大吟醸などは、淡麗でスッキリとした味わいです。このように、日本酒の味の濃淡は、造りや熟成度合いによって変わります。
ペアリングを考えるとき、まずは、味の濃淡で合わせるのが基本です。濃い味の料理には濃厚な日本酒を合わせる、繊細な味わいの料理には淡麗なお酒を合わせることで、お互いの美味しさを引き出すことができます。
味の濃淡を見る際に、料理ではカロリーの高いものが濃厚であることが多く、また、アルコール度数の高いお酒はボリューム感があるので、濃厚な日本酒を見分ける目安になるでしょう。ぜひ、参考にしてみてください。
味わいの同調作用を考える
ペアリングのコツとして、料理とお酒の味わい特徴を同調させる方法があります。たとえば、料理に添えられた柚子やライム、レモンなどに合わせて、フルーティでスッキリとした香りのある日本酒をあわせたり、サワークリームやバターといった乳製品様の香りのある日本酒に、豆乳鍋やクリームシチューなどを合わせたり。ほかにも甘い和菓子に甘めの貴醸酒を合わせてみるなど、同じ味わいの要素をあわせるペアリングは、さまざまなバリエーションがつくれます。
また、温かい料理には、お燗をした日本酒、冷菜にはキリッと冷えた日本酒を合わせるなど、温度を同調させるのもポイントです。ただし、同調作用がいきすぎるとくどすぎる組み合わせになることがあるので要注意です。味わいの強弱も意識してペアリングしてみましょう。
味わいの補完作用を考える
料理やお酒に足りない味わいを、どちらかの味で補完するというペアリングもあります。たとえば、脂っこい肉料理にレモンを絞って食べるように、酸味の足りない料理に、酸味の高い日本酒をあわせてみるといったペアリングです。
一般的に日本酒は塩味の要素が少ないので、酒盗や塩辛などの塩分の高い珍味などは合わせやすいです。料理に塩味がプラスされることで、お酒の甘味が引き立つなど味わいに作用します。
ただし、脳が喜ぶ味と不快を感じる味があるので、不快な味わいを組み合わるのは失敗のもと。甘味とのバランスを考えて、味わいを調整していきましょう。
個人の嗜好によってペアリングは変わる
お酒も料理も嗜好品。お肉や濃い味の料理が苦手な人がいれば、野菜が嫌いな人もいます。すべての人が納得するペアリングを提供するのは、難しいでしょう。自分が納得できるペアリングを目指し、さまざまな料理とお酒の相性を試してみることが重要です。
まずは、料理やお酒、それぞれの味わい要素とその濃淡を分解してみることからはじめてみてください。
日本酒の味を分解する
自宅に日本酒がある方は、まずはお酒の味を分解してみてください。saketakuの「テイスティングシート」を活用すると、お酒の個性がすぐに分かりますよ。
テイスティングシートには、香りを構成する要素や味わいの特徴などが細かく紹介されています。もちろん、最適なペアリングの提案もありますので、ぜひ試してみてくださいね。
食事の味を分解する
自宅で料理をつくるときは、出来上がりの味を想像して、お酒とどう合わせるか想像してみることが大事です。普段食べている食事はどんな味がするのか、日頃から判別するよう心がけることで、ペアリングの想像力も磨かれていくはずです。
満足度の高かったペアリング4選
これまでの開催いたイベントで提供して、好評だったペアリング紹介します。参考にしてみてください。
竹雀×若鶏 もも 生酛作りの純米酒。ぬる燗に仕上げました。
酒の幽庵焼き×KAKEYA 純米吟醸 塩味と柑橘由来の酸味、地の甘味などの主張がある幽庵焼き。16度のアルコールで甘味を感じながらも、渋味や苦味が全体をまとめます。
豚の角煮×NOTO 純米大吟醸 油脂性の強い角煮とうま味。どちらも味が濃醇でアルコールの刺激感や苦味で引き締めます。
丸ハツ×ひこ孫 凡愚 複雑味を帯びた丸ハツに熟成酒。
まとめ
味わいの濃淡や同調・補完など、さまざまな視点からペアリングを考えることで、日本酒や料理の味が一段と美味しく感じられるはず。「お刺身には、淡麗辛口の日本酒」などと決めつけずに、自由にいろいろ試してみて、自分好みのペアリングを見つけてみてくださいね。