酒蔵を廃業へ追い込む「火落ち菌」とは

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今回は、酒好きであればぜひ知っておきたい、酒造りの天敵「火落ち菌」についてお伝えさせていただきます。

 

みなさんは火落ちという言葉を耳にしたことはあるでしょうか。

火落ちとは

火落ちとは、日本酒に「火落菌」と言われる特殊な乳酸菌が繁殖することをといいます。

火落ちすると、日本酒は白濁してしいまいます。一般に酸の生成、特異臭(火落臭)が発生し、お酢のようなツンとした香りを放つようになり、飲めないほどの味になってしまいます。発生する菌の種類によって、その腐敗の程度は異なり、酸は生成するが香りの変化の少ない場合や、酸の生成は少ないが香りの変化の激しい場合などいろいろな火落ちパターンが存在します。

火落ちは「火落ち菌」によって引き起こされ、これを防ぐために火入れが行われています。

ほとんどの日本酒はアルコール分が15%程度で、アルコール度が高いため、このようなアルコール濃度中では一般の細菌は生育できません。しかし火落菌は、アルコール耐性が非常に強く、日本酒の中で簡単に増殖する可能性のある特殊な乳酸菌です。

その火落ち菌が活発に活動できる温度帯は28~30℃で、65℃前後で死滅します。

これを利用して、

  1. マイナス5℃などの低温で管理して、火落ちが発生する確率を限りなく下げる
  2. 65℃前後のお湯を使い、殺菌(熱殺菌、パスチャライゼーション)する

これらの方法で火落ち菌の発生を軽減します。特に2に関しては、火入れと呼ばれる作業で、市販されているほとんどの日本酒で採用されています。 ※火入れという名前のため誤解されやすいですが、直接火を通さない低温殺菌になります。

2018年現在の火入れ事情

近年酒質が多様化していることは皆さんご存知だと思います。 甘酸っぱいタイプ、とってもフルーティーなタイプなどありますが、火入れの技術の向上によって増えてきているのが「火入れしているのにフレッシュで炭酸を感じる」タイプです。
フレッシュな状態のまま火入れを終わらせるためには、急速に温め、急速に冷ます必要があります。 ミストのように気化熱を利用している蔵が多いそうです!

最新の機械を持っていない蔵は、63度に達した時点で急冷を行い、できる限り良い状態で火入れを行います。

火落ち菌とは

火落ち菌は乳酸菌の一種で、
日本酒に入り込むと濁りを生じ、酸化させ、臭みを帯びさせる原因となります。

また、日本酒醸造に欠かせない『コウジカビ』が生成する
メバロン酸(通称「火落ち酸」)を主食としており、
6%程のアルコール濃度を最適な生育環境としていますが、
なんと25%程度でも問題なく成育してしまうやっかいな菌です。

日本酒造りにおいて火落ち菌を発生させないためには、
火入れを行うか、火落ち菌が入り込まないよう徹底的に管理するしかありません。

一昔前の日本酒の仕込みには木桶が多く用いられていましたが、
木桶は内部まで完全に殺菌することが難しく、火落ちが頻繁に起こっていました。

一度火落ちが起こると、完全に菌が消えるまで何年にもわたりその酒蔵を悩ませました。

仕込み中の醪(もろみ)や、仕込み後の日本酒が火落ちが原因で酒質が変わってしまうことを腐造といい、 今も昔も、腐造の発生は蔵の経営を左右するほどの大事態で、腐造が原因で廃業に追い込まれる蔵もあるほどです。

ちなみに「火落ち」の現象自体はとても古くから知られており、
また、それを「火入れ」が防ぐことも平安時代の後期から行われていましたが、
「火落ち」や「火落ち菌」といった言葉が用いられるようになったのは明治時代以降のことだと言われています。

 

火落ちについて動画で知りたい方はこちら


【前編】日本酒の生酒と火入れの判別方法を伝授【日本酒スクールのプロコース最年少卒業】

まとめ

  • 火落ちとは日本酒の貯蔵中に火落ち菌が入り込み、濁りや酸化、臭みを生じさせること
  • 火落ちが起こらないように火入をする(殺菌)
  • 火落ちは木桶が使われていた時代に多く起こり、蔵人を長きにわたり苦しめた

 

木桶の歴史は古く、室町時代中期に初めて「オケ」という名称が現れます。 「オケ」の登場によって、当時、壺や甕で少量ずつ造られていた日本酒を大量生産することが可能となりました。

日本酒造りに使用した桶は、20~30年後に酒桶としての寿命が尽きると、 今度は味噌屋・醤油屋がそれを買い取り、更に30〜150年と大事に使われていきました。 こうして何百年にもわたり循環型の社会を築いていったのです。

現在では、ほとんどの蔵で管理のしやすいホーロータンクを使用していますが、 木桶ならではの味わいや昔ながらの循環型社会を取り戻そうと、新桶を使用したり、蔵に眠っていた木桶で日本酒を仕込む蔵も増えています。

清潔で安全な醸造が保障されている現在でも、 火入れをしていない日本酒のなかに火落ち菌を放置すると、過熟(かじゅく)となり、 酒が酢のようになってしまったり、老ね香(ひねか)を発したりすることがあります。 このような酒は「ひねた酒」などと呼ばれたりします。

次回は、その「老ね香」についてお話していきたいと思います。

それでは、また次回の更新をお楽しみに♪

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