炭と日本酒
前回は「日本酒と色」についての概要でした。
着色していく要因として、保管期間が長くなるほど増えていく物質は何だったでしょうか?
思いつかなかった方、ぜひ「日本酒と色の関係」を見返してみてください!
日本酒の色は保存環境などによる外部環境によっても異なりますし「活性炭」を入れるだけで透明になることもあります。
今回はクリアな日本酒がどのような味わいになりやすいかも含めて解説していきたいと思います。
まずは「透明な日本酒」の起源から。(諸説あり・・・)
「思わぬミス」によって大発見が生まれたと聞きます。
活性炭がいれられるようになったのは「蔵人の反骨心」によるものだったそうです。
昔々、ある酒蔵で・・・
当時冬は休むことなく働くのが蔵人の役目でした。
現在でも冬は休まずに製造している蔵もあるほどです。
数ヶ月の間、休み無しで働くので疲労感も次第に溜まっていきます。
そしてある時、ついにしびれを切らした蔵人が完成したお酒に炭を入れてしまったのです。
お酒がダメになってしまったと思った蔵人はそのままにげてしまったそうですが、
残りのメンバーが味見してみると、なんとも美味しい。
こうして活性炭使用前のお酒と比べると長期的に安定した酒質になることがわかり、多くの蔵で使われ始めたそうです。
このような歴史から始まったとされる活性炭の力について紹介していきます。
活性炭を入れると吸着される物質
これは前回の「日本酒と色の関係」でもお伝えしましたが、再掲載しておきます。
- 色
メラノイジン
- 香り
バニリン、フェルラ酸
- 味
酸味=コハク酸、リンゴ酸、クエン酸 etc・・・
苦味=フェニルアラニン、トリプトファン、チロソール、ペプチド etc・・・
渋味=チロシン
ビタミン=フラビン
つまり、着色要因である
・メラノイジン
・フェリクシン
・フラビン
をすべて取り除いてしまうということですね。
すなわち、残りえるのは
アルコール
糖類
乳酸
アラニン
グルタミン酸ナトリウム
アスパラギン酸ナトリウム
アルギニン
と非常に限られてくるわけです。
この特徴を元に、香りと味への影響を解説していきます。
香りへの影響
活性炭ろ過された日本酒の香りは、至って単調な構成になります。
ソトロン
イソアミルアルコール
乳酸
このような香りがメインです。
ソトロン量によりますが、コメントに落とすと以下のようになります。
(例)
「優しい飴やシロップのような甘味を含みながらも、酸による清涼感と、精米歩合による重厚感を感じる構成」
果実香は感じられず、穏やかで丸みのある構成になりやすいということです。
「ソトロン」とは香ばしい香りや苦味を感じるもので、「熟成具合」とまとめてしまっても良いかもしれません。
ソトロンが増加していく条件は3つ。
2回火入れ
熟成期間が長い
熟成温度が高い
いずれかの条件をクリアしていると更にソトロンの香りが強く感じられ、甘味や香ばしい香りが強くなっていきます。
味わいへの影響
味わいとして大きく変わる点は、脳内にとって不快な影響を与える酸味・苦味・渋味が活性炭により吸着されることです。
残存している物質から想定される酒質は2パターン。
①辛口を唄うタイプの日本酒(もちろん蔵によって味は異なります)
シロップのような甘味を感じられる
加水による酸が多い
余韻が短く口の中でどんどんキレていく
②アミノ酸度を高くして味わいは薄くなっているものの、深みのあるタイプ
含んだ瞬間の深みのあるアミノ酸度由来の甘うま味
味わいがキレイすぎないことによる酸味の存在感のやさしさ
余韻の長さ
こういったお酒を造る蔵は、他の製品でもアミノ酸度高い傾向にあります。
活性炭を入れるメリット
ここまで、活性炭を使用することを前提に解説を進めましたが、なぜ蔵は活性炭を使用するのでしょうか。
使用されるようになったきっかけは蔵人の反骨心ということはお伝えしました。
使用することで香りや味わいにも大きな変化が生まれます。
酒蔵が活性炭を使用するのは、「味わいの変化を穏やかにして、酒質の劣化を防ぐ」ことが大きな理由のひとつです。
日本酒は純米酒などの高品質化が進んでいますが、もちろん地元向けの製品も存在します。
そういった製品は瓶で低温で貯蔵されるわけではなく、タンクで貯蔵されることが多くなっています(もちろん例外も多々あります)
タンクでの貯蔵を行うと、温度が均一では無かったり、酸素に触れる機会も多くなります。
本当は瓶内で丁寧に貯蔵して出荷したいのですが、全てのお酒を保管できるほどの冷蔵施設も備えられていないので、いくつかの製品はタンク貯蔵しなくてはいけないのです。
そのときに活性炭を使用することが酒質安定化の策として有効なのです。
蔵も限られた設備の中で安定した酒質を提供するために試行錯誤をしています。
「楽しい日本酒のテイスティング講座」の目次
日本酒の発酵経路を解説!デンプンから何が出来る??
日本酒の分析値が果たす役割〜ラベルには書かれない「アミノ酸度」がとても大切〜
日本酒と色の関係〜焼き肉と原理は一緒〜
「透明の日本酒」〜蔵人の怒りから大発見が生まれた!?〜(←イマココ)
日本酒と香りについて〜人は約400種類の香りを嗅ぎ分けられる!〜
「フルーティーな香りの日本酒」〜ベースはリンゴとバナナ。あとは何を足す?〜
「清涼感があってスッキリとする日本酒」〜ヨーグルトや青竹も爽やかな印象を与えます〜
「ずっしり落ち着いた日本酒」〜油性マジックや蜜蝋の香り?〜
「香ばしい熟成感のある日本酒」〜飴またはカラメル。ときどき紹興酒〜
お米から作っているんだから!「米の香りのする日本酒」
この香りがしたらアウト!「質が良いとは言いづらい日本酒」に共通する香りたち
日本酒の味わいについて〜人は7個の味しか感じられません〜
「日本酒と甘味」〜脳が自然と欲する味〜
「日本酒とうま味」〜うま味も酵母が作る。深みと重みを与える味〜 \
「日本酒と酸味」〜爽やかな酸とまろやかな酸〜
「日本酒と苦味」〜時には深み、時には刺激〜
「日本酒と渋味」〜ポリフェノールはほとんどありませんが、渋いです〜
「日本酒と刺激」〜アルコール?酸味?刺激を与える要素たち〜
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