日本酒の酵母は味の決め手?徹底調査しました!

f:id:smrki228:20200903035450j:plain

2021/3/11 更新

 

今回は日本酒だけでなく、
お酒にとってなくてはならない菌「酵母」についてお伝えしたいと思います。

酵母と一言に言っても種類や用途が様々ですので、
この機会にぜひ覚えていきましょう!

 

 

酵母とは?

酵母とは?

酵母(イースト)とは、植物、樹液、花蜜、果物など色々なところに生息する「菌」 つまり「微生物」です。

カビや麹、乳酸菌や納豆菌と同様、有機物(食物)を分解しながら成長します。 その状態のことを「発酵」といい、 私たちはこの自然の力を利用して、古くから日本酒、ビール、ワイン等のお酒、 味噌や醤油、酢等の調味料、漬物、納豆、パン、チーズなどをつくってきました。

一般に、お酒造りに広く使用されている酵母は、酒のもろみから分離されてきましたが、 近年では、これらの酵母を人工的に変化させて 特定の醸造能力を高めた酵母も多く利用されています。

東京農業大学では、自然界から、個性豊かで特徴ある酵母を分離することを試みました。その結果、自然界に咲く花々から日本酒造りに向く優良酵母を分離することに成功しました。まさに、花からの贈り物というべき天然の酵母です。

酵母は、麹と同様、アルコール発酵にとって無くてはならない存在です。

酵母はブドウ糖を食べ、アルコールと炭酸ガスを排出しますが、他にも非常に複雑な過程からアルコールと共に芳香成分であるエステルやその他の有機物を排出します。その芳香成分が出来上がるお酒の香味に大きな影響を与えています。

おまけ:発酵と腐敗について

これまでご説明した発酵と、「食品が腐ること」つまり腐敗は紙一重です。

微生物が体に良い何かを生成するときは発酵、体や人にとって都合の悪い何かを生成する時は腐敗と表現します。

ちなみに納豆は発酵食品ですが、実は日本酒の世界では納豆菌は大敵です。日本酒を腐敗させてしまいます。

このように、状況によって発酵か腐敗かは、表現や捉え方が大きく変わります。

協会酵母(きょうかい酵母)について

酵母には非常にたくさんの種類があり、日本醸造協会では、 その中でも特に清酒の醸造に有効な種類を「協会酵母」と呼び、 いずれも「きょうかい◯号」とナンバーが付けられています。

現在では、協会酵母は19号まで存在しています。 (※1号~5号、8号は基本的に使用されていませんが、復興の意味を込めて造られることもあります)

また、この協会酵母のそれぞれの突然変異株で、醪で泡を生成しない酵母を 「泡なし酵母」と称して、それぞれ元になった協会酵母の番号の後ろに「01」 をつけ呼ばれています。

たとえば、7号の泡なしタイプは「701号」、9号の泡なしタイプは「901号」 といった具合に、601、701、901、1001、1401、1501、1801、1901の8種類が頒布されています。

協会酵母の中でも、熊本県酒造研究所や茨城県の明利酒類では「9号」「10号」を生んだ蔵として、協会とは別に頒布を行っています。 「KA-1」(熊本1号)「KA-4」(熊本4号)などは前者で開発され、 広く各地で吟醸造りに用いられています。

最近では、各県毎の酵母開発競争が盛んに行われ、賑やかな話題を提供していますね。香りの出やすい吟醸酵母や新しい酒質に向けたものなどが、開発のポイントに置かれているようです。 また、一方で、進んで自家培養を行う蔵元もどんどん増えてきています。

おまけ:泡なし酵母について

泡なし酵母は、それぞれの酵母の突然変異株で、幾多もの試験によって醪で泡を形成しない株を選抜し、 それを純粋培養するという気の遠くなるような作業から生まれます。 今では半分以上が泡なし酵母で日本酒が醸されています。 泡が出ないことで、タンクから泡が溢れない、状態を見やすいというのが理由ですが、 泡は酵母の呼吸だからということで、泡有りの方が状態を観察しやすいなど、 蔵によって様々です。

酵母の種類

数が多いのでもちろん全部覚える必要はありませんが、 主要酵母や自分の好きな銘柄に使用されている酵母を知る良い機会だと思いますので、お付き合いくださいね♪

きょうかい1号

明治39年に桜正宗の酒母から分離された酵母で、強健で、高温での醗酵に適 していますが、香りは平凡で、普通酒用の酵母です。 大正5年から昭和10年まで「甲種瓶詰清酒酵母」として頒布されました。

きょうかい2号

明治末期に月桂冠の新酒から分離された酵母で、真ん丸な形をしていて、顕微鏡でみるとすぐに見分けられ、香りがよく、低温に適した酵母だったようです。

きょうかい5号

広島の賀茂鶴から大正12年頃に分離された長い楕円型の酵母で、香りはフルーティで、中、低温に適しており、発酵力が強く泡がねばるほどの酵母だったようです。 大正14年から昭和11年頃まで頒布されました。

きょうかい6号(新政酵母)

秋田県の新政酒造で昭和10年頃に分離された酵母で発酵力が強く、澄んだ穏やかな香りでまろやかな旨味を出し、卵型をしているのが特徴。吟醸酵母のはじまり。

きょうかい7号(真澄酵母)

長野県の真澄から分離された酵母で、卵型をしているのが特徴です。 協会6号とよく似ており、発酵力が強く、酒質優秀、近代酒質の基調となっています。

きょうかい8号

協会6号酵母の変種として昭和35年に分離された酵母で、協会6号酵母 よりも発酵がゆるやかで、香りの良い酵母です。 昭和38年から頒布、昭和52年に頒布が中止されました。

きょうかい9号(熊本酵母)

熊本醸造研究所のもろみから分離した通称「熊本酵母」。昭和43年から頒布されています。 低温での発酵に適しており、酸が低く、華やかで香り高いお酒ができやすいことから、吟醸造りに適した酵母として全国で使用されています。 俗に言う「YK35」とはY=山田錦、K=熊本酵母、35=精米歩合35% という略号で大吟醸酒の代表的な造りの一つとなっています。 90年台の吟醸ブームピーク時には金賞受賞酒の8割が熊本酵母でした!

きょうかい10号(小川酵母)

東北6県の酒造場のもろみから分離された酵母のうち、特に性質に優れたものを 昭和52年から、協会10号酵母(明利小川酵母)として販売しています。 どの協会酵母よりも、酸の生成が低く、吟醸香も高いことが特徴です。

きょうかい11号

昭和50年に協会7号から分離されたアルコール耐性の高い酵母で、性質はほとんど7号と同じですが、7号よりやや酸味が多く、もろみの末期の高アルコールの中での死滅率が低くアミノ酸の生成が低いのも特徴。りんご酸が多い。 また野生酵母の出す毒素に対する耐性を、協会酵母の中で唯一獲得している酵母です。

きょうかい12号(宮城酵母)

昭和41年、宮城県の浦霞酒造場から分離された酵母で、芳香高く、低温でもよく発酵します。酒質優秀。吟醸酒向きの酵母です。 別名浦霞酵母

きょうかい13号

昭和56年頃、協会9号と協会10号の交配株から分離された酵母で、性質は協会9号と良く似ています。低温で短期発酵、もしくは低温での中期発酵に適した酵母です。

きょうかい14号(金沢酵母)

金沢国税局管内で使われていた「金沢酵母」と呼ばれる一群の酵母の中から、吟醸香生成能力の高いものを選抜したもの。性質は協会9号と良く似ていますが、発酵末期で酵母の死滅が少なく、そのためアミノ酸を低く押さえる事ができます。 りんごや梨のような芳香があり、吟醸や純米酒に適した酵母です。

きょうかい15号

秋田醸造試験場が育成した、吟醸用酵母、秋田流・花酵母(AK-1)が平成8年から協会15号酵母として頒布されています。 甘い香りのカプロン酸エチルの生産性が高く、協会7号の変異種と考えられています。泡が少なく、有機酸の生成が少ないという特性を持ち、低温長期発酵に向 く酵母です。

きょうかい18号

近年、とても人気のある酵母です。9号と同様、ある年のコンテストに出品された174点のうち、K-1801を使用して入賞した日本酒が全体の57%を占めるほどです。この酵母の特徴はリンゴのような爽やかで華やかな香りの「カプロン酸エチル」を多く作り、酸味が出にくいため、フルーティーで柔らかい味になりやすいです。香りを楽しむためにワイングラスのように膨らみがあるグラスだとより楽しめます!

きょうかい19号

リンゴの香りに例えられる吟醸香「カプロン酸エチル」を高生産するきょうかい18号から分離した酵母です。19号の特徴は、輸出の際に一部の国で規制がかけられている「カルバミン酸エチル」生産しないことです。清酒中では尿素とエタノールが反応してカルバミン酸エチルが生成されるため、これまでのきょうかい酵母にはない特徴の酵母ですね。それでいて香りが華やかなので、輸出の際には大いに活躍してくれるでしょう。 

 

泡なし酵母

酒づくりの合理化に伴い、発酵段階で泡が出ないので、タンクを上限まで有効に使えて、清掃も簡単に行える等のメリットがあります。しかし、発酵度合いがつかみにくいので杜氏にはあまり好まれていないようです。 601号、701号、901号、1001号などがあり、それぞれ6号、7号、9号、10号の突然変異株です。

協会酵母以外の酵母

秋田酵母

秋田流花酵母(AK-1)は、協会15号として認定されましたが、その他、兄弟酵母で、AK-2F、AK-3Fなどの酵母もあり、頒布されています。 これは本醸造や純米酒用の酵母で、二つとも協会9号程度の発酵能力と、協会10号以下の酸の生成が確認されています。

佐賀酵母

協会9号を親として、品種改良が加えられ、より香り成分の生成能力の高い 酵母として分離されています。 佐工試1号酵母(SK-1、ヒミコ酵母)などと呼ばれています。

静岡酵母

静岡県内の酒造場(土井酒造)から分離された、酵母HD-1とNO-2、それらの交雑から産 まれたNEW-5の三種類が県内の酒造メーカーに頒布されています。 全体的に酸は低く、爽やかですっきりとした酒質を生みやすい酵母です。 HD-1 吟醸香が高く、やや酸の多い酒を生成(吟醸用) NO-2 香りが軽快で、酸の低い酒を生成(本醸用) new-5 香りが上品で、酸の低い酒を生成(純米吟醸用)

別名静岡土井酵母でSD酵母とも呼ばれます。

長野酵母

もともと1960年代に県内酒造場から分離されたNP酵母が長野酵母と呼ばれ ていました、現在、流通しているのは、このNP酵母と協会901号酵母の細胞融 合、および変異処理によって創出された酵母で、発酵能力が高く、香り成分の 生成能力も高い吟醸用酵母として使用されています。

広島酵母

広島県酒造協同組合から、広島2号・5号・6号・21号、そして、せとうち21号の5種類が頒布されていますが、実際に流通しているのは、広島2号、21号、せとうち21号です。 広島2号は熊本県の西海酒造と広島6号の交配によって出来た酵母で、 穏やかな発酵経過を示し、広島の酒造りに向いていると言われています。 また、広島21号は、広島2号の泡なしタイプです。 せとうち21号は、広島21号から吟醸用として分離された酵母で、酸度やアミノ酸度を協会9号よりもやや低く抑える事ができる事と、ほのかにみずみずしい洋梨のような吟醸香を出す事が特徴と言われています。

山形酵母

醸造場のもろみから分離した吟醸用酵母Y-1(YAMAGATA-1)株は昭和61年か ら頒布されています。 この他YK-0107とYK-291の2種類が平成3年から頒布されています。

おまけ:キラー酵母とは?

キラー酵母

酵母の中には、高分子のタンパク質からなるキラートキシンという物質を 分泌して、他の種類の酵母を殺してしまう酵母があり、これをキラー酵母と呼 んでいます。 このキラートキシンに弱い酵母を感受性酵母、殺しも殺されもしない酵母 を中性酵母と呼んでいます 協会酵母は、協会11号を除いて感受性酵母で、野生のキラー酵母に汚染 された場合、香味に変調をきたす場合があります。

まとめ

さて、今回も長くなってしまいました(汗

簡単におさらいします。

  • 酵母によって発酵力の強弱があり、発する香りも様々である
  • ブドウ糖を食べてアルコールと炭酸ガスを排出する
  • 日本酒造りにおいて使用される酵母は「きょうかい酵母」と呼ばれている
  • 酵母には種類がたくさんある

酵母についていかがでしたでしょうか?

日本酒の方向性を決めるのがこの酵母です。日本酒のルーツに詳しくなれば、お酒を飲む時に「なんの酵母で仕込まれたのかな?」「9号酵母で仕込まれたんだったら〇〇な味になってそうだな」と想像を膨らませながら日本酒を楽しむことができます。ぜひ、酵母について興味が湧いてきたら、またこのページに立ち戻ってみてください。理解が一層深まると思いますよ♪

では、また次回♪

/* custom-footer */