本当に美味しい熱燗の作り方。日本酒は温度を上げるだけでもレンジは絶対NG!

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秋の到来とともに、熱燗の季節がやってきました。日本酒は、幅広い飲用温度帯で楽しめるのが大きな魅力。つまり、冷やして良し温めて良しのお酒です。寒い季節には、温かい料理と一緒に熱燗!が一番のおすすめです。

とはいえ、どんなふうに熱燗を作ったら美味しくできるのか、どんなお酒が燗に向くのかなど、疑問に思うことも多いのではないでしょうか。

そもそも、”熱燗”と言っても、40度がぬる燗、45度が上燗、55度以上は飛び切り燗など、温度帯によって呼び方もさまざま。つまり5度単位で味わいが変化するほど、実は繊細なものなのです。

今回は、さまざまな角度から、美味しい熱燗をつくるための情報をご紹介したいと思います。

電子レンジは絶対NG、日本酒は湯煎で温めて

「さぁ、熱燗を作ろう!」と思いたったら、まずは、サクッと簡単に温められる電子レンジを利用する、という手があります。もちろん悪くはないのですが、本当に美味しい熱燗をつくるために、電子レンジのデメリットについても知っておきたいところです。

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電子レンジはNG!?

電子レンジがダメな理由

熱燗をつくるのに、電子レンジがNGな理由はいくつかあります。その前にまずは電子レンジの仕組みについておさらいしましょう。

そもそも電子レンジは、どのようにして食品を温めているのでしょうか。

電子レンジは、食品に含まれる水の分子をマイクロ波で振動させることにより発熱をおこす「マイクロ波加熱」によって食品を温めています。

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せっかく美味しい日本酒があるなら、必ず湯煎で付けてくださいね。美味しい日本酒が台無しです。

液体にストレスがかかる

電子レンジに水を入れてマイクロ波を当てると、プラスとマイナスの電界が交互に変化します。その変化によって水も交互に変化(振動)を起こします。

一般的な、周波数が2450MHzですから、プラスマイナスが入れ替わる頻度は、1秒間になんと24億5000万回! その摩擦熱によって素早く食品が温まるという仕組みです。

当然ながら、お酒にもストレスがかかりますよね。

温度ムラができる

電子レンジのデメリットとして、温度ムラがあげられます。

マイクロ波が多く当たる部分は熱が高くなってしまうため、端の部分と中央の部分で温度差が生じてしまうのです。

一般的な徳利だと、上部の持ち手のくびれの部分が一番高くなり、中央部分が低くなります。徳利の底の温度が45度に達したときの徳利内の温度分布を調べた実験では、徳利の上部と中心で、40度近くの温度差がありました。

また、アルコールの沸点は、78.5度。持ち手の首部分は86度にまで温度があがってしまうため、アルコールが揮発してしまいます。

さらに徳利の底部と上部の温度差によって対流が起こります。対流は、液体を冷めやすくさせるという特徴も。つまり、せっかく温めても徳利内部の温度ムラによって対流がおこり、結果としてすぐに冷めて美味しくなくなる可能性が高いのです。

湯煎のコツ

電子レンジは手軽で便利ではありますが、せっかく美味しい熱燗をつくるなら、ひと手間かけて、湯煎で燗をつけてみてはいかがでしょうか。まずは、鍋に徳利が半分つかるくらい、のお湯を用意。あとは温度計を用意するのもお忘れなく!

70度の湯につける

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熱湯は避けて、70度くらいの温度で湯煎

では、湯煎するお湯の温度はどのくらいがいいのでしょうか。人によって答えはさまざま、もしかしたら正解はないのかもしれません。とはいえ、いきなりグツグツと沸騰したお湯の中に入れるのは、避けた方がいいでしょう。温度差がありすぎるため、徳利が壊れてしまうこともあります。

逆に、40〜50度など低すぎる温度も、温まるのに時間がかかりすぎてしまいアルコール分も飛んでしまう可能性があります。アルコールの沸点である78.5度に達しない、70度くらいの温度で湯煎するのをおすすめします。

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熱湯で付けるのは禁物。少し冷ましてから付けることでさらに美味しくなります。

水の状態から一緒に温める

少し手はかかりますが、お湯を温める前に徳利を入れて火にかけて、水が温まるのと同時にお酒も徐々に温めるという方法があります。水から入れるかお湯から入れるかの違いです。

実際にやってみると、味わいの違いは歴然です。水とお酒で温度差がない状態がいいのかもしれません。加熱によって温度があがりすぎないよう、温度チェックを忘れないことも大事。トロ火でゆっくり、徐々に温度をあげていくのがコツです。

他にも、セイロを使って蒸して燗をつける”蒸し燗”など、新たな燗のつけ方も登場しています。いろいろ試してみて、自分なりのつけ方を探るのも楽しいかもしれません。湯煎は最も失敗が少ない方法です。まずは、湯煎から試してみて、ディープな熱燗世界への第一歩を踏み出しましょう。

大吟醸は熱燗に向かない?

温めて良しの日本酒ですが、どんな日本酒でも温めれば、美味しくなるかというと、それも少し違います。日本酒は精米歩合によって大吟醸酒、純米酒など、製法によって分類されるうえ、造り手によって酒質もさまざまです。

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大吟醸の酒質とは?

一般的に、米を50%以上削った大吟醸酒は、熱燗に向かないと言われますが、それはなぜでしょうか。

温度が上がると味が変わる

熱燗の美味しさのヒミツは、温めることによって甘味や旨味が膨らむこと。味わいの成分が変化するわけではなく、温度が高くなることで味の感じ方が変わるのです。

たとえば、甘味は体温付近(36〜37度付近)でもっとも高く感じられます。溶けたアイスクリームやぬるくなったジュースなどは、甘味が増したように感じられるのが良い例です。他にもコーヒーなど苦味の成分を含む飲み物は、温度が高いと苦味を強く感じるようになります。このように、日本酒にバランス良く含まれる甘味、うま味、酸味、苦味、渋味の要素が、温度の変化によって違う味わいに感じられるようになるのです。

酸度などが低いことが多い

大吟醸酒が燗酒に向かないと言われるのは、温度帯によって味が変わる要素である酸やアミノ酸が少ないタイプが多いことから。

大吟醸酒は、米を50%以上磨きます。米を削らない純米酒タイプの日本酒と比べると、必然的に酸やアミノ酸の量が減ってしまいます。特に、タンパク質から生成されるアミノ酸は、米を削ることで大きく減少してしまうのです。

また他の要因としては、フルーティな香りが立つタイプも燗をすると香りが飛んでしまったり香りの質が変化したりするため、燗には不向きといえるでしょう。

酵母の栄養が少ない

アルコール発酵に欠かせないものは、米のデンプンから作られるブドウ糖とタンパク質からできるアミノ酸。酵母がブドウ糖を食べる、つまり分解代謝することでアルコールが生み出されます。また、デンプンを糖に分解するのにも、酵母の力が必要です。糖化とアルコール発酵の2つが同時に行われることが並行複発酵であり、日本酒の大きな特徴です。

酵母の食料であるデンプンや糖分が多い方が、発酵が旺盛になり代謝も活発になります。その結果、有機酸やアミノ酸をたくさん出してくれるのです。

生酛は決め打ちで燗に!

酸度やアミノ酸度の高いお酒が、熱燗向きの日本酒であることが分かってきました。では、濃醇な酒質である生酛系や山廃系は燗酒に向くと言えるのでしょうか?

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昔ながらの生酛系酒母は燗酒にぴったり?

生酛系の酒母について、詳しくはこちらの記事を参照ください。

記事の中でも紹介していますが、生酛系の日本酒には、コクをつくる「旨味」と「苦味」が多いのです。その理由は…

①先行して乳酸菌などがタンパク質の分解を促進し、アミノ酸が多くなりペプチドが減ります。

②後から育つ酵母はアミノ酸を取り込み、栄養源としてペプチドを取り込む能力が低下してしまいます。

③生成したお酒にはペプチドが多くなり味に幅が生まれるのです。

④速醸酛ではペプチドが少なくなりシャープな印象の酒質となっています。

つまり、速醸酛に比べて、味の幅やコク、深み、キレに関与するペプチドが増えて、厚みのある味わいになりやすいのが、一般的な生酛系で造られた日本酒の特徴なのです。

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徳利からおちょこに注ぐだけで、温度が3度下がります。

酸・アミノ酸の感じ方の変化

酸味に関しては、これまでは17〜42度の範囲で、感じ方がほとんど変わらないと解釈されていましたが、日本酒に含まれる乳酸やコハク酸などの有機酸に関しては、43度のぬる燗で酸味が強く感じられるということが分かってきました。

乳酸やコハク酸は、温旨酸系とも呼ばれ温めると美味しく感じられる酸。一方で、リンゴ酸やクエン酸などの冷旨酸系の酸味は冷やすと美味しく感じられます。たとえば、コハク酸を多くつくり出す酵母、協会6号酵母や14号酵母などで造られた日本酒は、熱燗に向くと言えるでしょう。

また、日本酒に含まれるアミノ酸、アラニン、グリシン、アルギニンも同様です。燗をつけることで、収斂味・苦味が軽減されて、ソフトな口当たりに感じられ、飲みやすくなる効果があるのです。

「純米酒=熱燗🙅🙅🙅」自分の舌を信じるべし

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熱燗に向く酒質とは?

これまでで分かった熱燗に向く酒の特徴をまとめると、

  • 乳酸やコハク酸などの温旨系の酸が多いこと
  • ペプチドが多いこと

などの特徴がみえてきます。

しかし、大吟醸酒が熱燗に向かない、生酛系酒母の日本酒が向くなど、多少の傾向はあるもののすべての酒に共通しているわけではありません。

たとえば、大吟醸酒でもコハク酸を多くつくりだす協会6号酵母や14号酵母を使ったり、乳酸やペプチドを多くつくりだす生酛系酒母で造れば、熱燗に向く酒質を造ることは可能です。また、たとえ生酛系の日本酒でも、たとえば10号酵母で醸せば酸味が出づらいため、温めると甘味の主張が強くなり、燗酒に向かない酒質になってしまいます。

結局のところ、特定名称などラベルの情報を重視しすぎずに、自分の舌で味わってみることが一番大事と言えるでしょう。まずは、冷やした状態飲んでみて、甘味が強いか、酸味がどのくらいあるのかなど、探ってみてください。甘すぎるものは、温めると甘味が強調されすぎてくどくなる、ほどよい酸味や旨味のあるものは、さらにふくらむ可能性があるな、など妄想するなど、お酒と会話する時間も楽しいものですよ。

日本酒を熱燗にすると何が良いの?

日本酒を熱燗にするとどんなメリットがあるのでしょうか。体が温まってリラックスできる、酔いから覚めるのが早く二日酔いが少ないなど、さまざまな効果があると言われています。

お酒の味わいを整えられる

燗酒にすると、味わいが変化するのはもちろん、舌触りがなめらかになったり、甘味、苦味、酸味のバランスが良くなったり、味わいが整えられると言われています。冷やすとシャープに感じられ、温めるとまろやかに感じられるという効果もあり、食感やテクスチャーとも深く関わっているようです。

原酒は刺激感が強くなるので注意!

ただし、アルコール度数の強いものは、温めることでアルコールの刺激が強まってしまうものもあるので要注意。加水していない原酒など、アルコール度数が17〜18度などと高いものは、加水して燗をつけるなどのひと工夫で美味しく飲めることもあります。

体温に近い形でアルコールを摂取できるので、分解されやすい

熱燗は、二日酔いになりにくいとも言われています。燗酒は体温に近い温度帯のため、体に吸収されやすく、酔いが回るのが早いのです。そのため、アルコールが分解されるのも早く、なおかつ飲み過ぎを防げるというわけです。

saketakuでも美味しい熱燗の日本酒を送っています!

saketakuでは、季節に合った日本酒をご紹介しています。これからの季節は、熱燗に合うものを厳選してお送りしますので、ぜひ記事を参考に燗をつけてみてくださいね。

鑑定士がおすすめする熱燗で美味しい日本酒の特徴

saketakuでは、鑑定士が実際に燗をつけてみて、自分の舌で味わって、納得した日本酒だけをお送りしています。saketakuでお送りしている日本酒の選定方法については、「誰もがうなづく。saketakuがお届けする日本酒について」をごらんください!

基本的にアルコールは16度まで

アルコール度数が高すぎると、燗酒にしたときに刺激が増してしまいます。アルコール度数は16度までのものをおすすめしています。ただし、中にはアルコールが高くてもその刺激感を見せない銘柄もありますよ!

酸味が強いもの

燗酒に向く酸味やアミノ酸の多いものをお送りしています。もちろん、コハク酸や乳酸などの温旨酸の多いものが基本です。

生酛・山廃系

乳酸が多く引き出される酒母造りをしている、生酛・山廃系の日本酒に注目しています。

熟成系

熟成によって、甘味をつくる要素やコクをつくるペプチドが増えるため、少し寝かせたお酒を選んでいます。

実際にお届けした熱向きの日本酒

若さと熟成感が一本で楽しめる酒「英(はなぶさ)」

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三重県伊賀市の森喜酒造場。社長の名前の「英」を取っています。

冷やしてよしあたためてよし。鳴瀬川 純米酒

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地元でしか販売しない鳴瀬川を扱わせていただきました。
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