新潟「淡麗辛口」の日本酒とは。知ると日本酒が楽しくなる!

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いよいよたのしい日本酒講座も終盤に差し掛かってきました。

第一回から第四回では「日本酒の一般常識のなかで勘違いされているトピック」について、第五回から第八回では「代表的な4タイプの味わいについて」、第九回以降では「日本酒だけでなく、生活を更に豊かにする食事との合わせ方」などをご紹介しました。

 

 

 

皆さんの好きな味を聞いてみると、フルーティーが好きな方もいれば古酒が好きという方、それぞれあったと思います。

例えば年代別で聞いてみると、お年を召されている方ほど皆「辛口」と声を揃えて言いました。

この理由については第二回の「新潟の美味しい辛口の日本酒ください」でもお話しました。

辛口と言えば何県の日本酒を想像されますか?「新潟」というイメージを持っている方も多いと思います。

この決まり切ったイメージは、「コカコーラとペプシ」を飲み比べた時にコーラが美味しいと感じてしまう人の割合が多いのと同じかもしれません。

ブランド名がわからない状態で2つを飲んでみると、ペプシの方が美味しいというデータも出ているそうですよ。

みなさんは、新潟が辛口のお酒だけを造っている県だと思いますか?

新潟で美味しいと思っているお酒が、もしかしたら旨口かもしれません。

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外はとても寒いので、室内で干す蔵も多くあるそうです。

【なぜ新潟は淡麗辛口と呼ばれているの?】

「新潟=淡麗辛口」と考える人の割合は50%を超えるのではないでしょうか?

このようなイメージが定着しているのは、酒造業界の歴史と新潟県の努力によって出来上がっています。

味わいのブームは辛口と甘口を交互に行き来している!

現在では味わいにバリエーションが増え、多くの蔵が独自性溢れる銘柄を造りますが、昔は甘口の酒ばかりだったという記載があります。

酒造業の歴史を遡ると、平安時代初期に編集された「延喜式」で現在の仕込みとほぼ同様の手法で醸造していたことが記されます。

江戸時代になると「火入れ」「アルコール添加」が開発され、明治から現在にかけて更に衛生管理の向上や技術革新も進みました。

そして、終戦後は深刻な米不足に陥りました。米不足を皮切りにアルコール添加を大量に行う三倍増醸酒が生まれます。

三倍増醸酒は酸味が少なく糖分が多いお酒。口の中に残るベタベタした甘い味わいが劣化と捉えられてきました。そして同時に技術も向上してきたことが「甘口化」に拍車をかけました。

酒造業界の技術革新の一例 ・醸造協会が酵母を分離頒布

・活性炭の使用

・木桶を止めてホーロータンクを使用しての仕込み

そのため差別化を図るために地酒蔵が辛口にシフトしていったとされています。

そんな中、新潟県としての取り組みはどのようなものだったのでしょうか。

【日本酒生産数量、都道府県別で3位の努力がすごかった!】

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五百万石の玄米です。目的とする精米歩合まで削ったあとは「枯らし」という水分調整する作業を行います。

新潟県のほとんどの蔵が「淡麗辛口」を目指し、一躍有名になる蔵が現れたことで飲み手に「新潟県=辛口」というイメージを与えたのではないかと思います。

その事象がメディアに取り上げられたことで、多くの方の認知をとることになったのでしょう。

また淡麗辛口を目指す理由になったことの1つの理由として「新潟県醸造試験場」の存在は欠かせません。

1930年に設立し当時は全国で唯一の県立清酒専門醸造試験場でした。

試験場では酒米などの開発や新潟清酒学校と呼ばれる蔵人の教育も執り行っています。

また、試験場で開発された酒米のひとつに「五百万石」があります。皆さんも一度は聞いたことがあると思います。名前の由来は、新潟県の酒米生産量が五百万石を超えたことからだそうです。その後も酒米の開発を続け、2004年には大吟醸酒などに向く「越淡麗」を開発しています。

五百万石の性質としては、米が硬く溶けづらい傾向にあるため、「米を溶かして酵母のエサであるブドウ糖を作って、発酵力の強い酵母でたくさん発酵させる」というよりも、「少し溶かして、エサが足りなくなるくらいにしてブドウ糖を無くす」造りを行っていたようです。

越淡麗は、溶けやすく大吟醸酒に向く性質を持っているため「お米をたくさん削ってお米を溶かして香りを出していく」ように造りやすくなっています。

これらの酒米は綺麗で飲み心地の良い味わいになりやすいと言われていることからも淡麗のイメージがついているのでしょう。

【✗淡麗辛口→○新潟淡麗】

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新潟「越後雪紅梅」を醸す長谷川酒造さんは、昔から旨口をつくっています。

淡麗辛口という言葉が定着していますが、辛口のイメージが先行する中で「甘口・旨口」を造り続ける蔵もいました。

なぜかといえば、同じ新潟県でも地域によって気候や食文化も変わるからです。これは、新潟県だけに言えることではありません。全国の地酒蔵もそう考えます。

旨口を造る蔵は、淡麗辛口との「差別化」も意識していることでしょう。

こうして新潟県でも「旨口」を製造し、多くの方に飲まれるようになっていきました。

現在の新潟県のお酒は「淡麗辛口」ではなく「新潟淡麗」と覚えてください。

近年さらに味わいが多様化され、濃醇タイプも造られているため一概に「新潟淡麗」と言うことが出来ませんが、新潟県としては「新潟淡麗」の酒質を造ることを心がけています。

【現存する甘辛の指標は信用しない方が良いです!】

新潟県としては「辛口」を全面に押し出さなくなったのはご理解頂けたかと思います。では、日本酒の甘い・辛いはどのように分類するべきなのでしょうか。

わたしたちが普段から目に触れる情報の中で「日本酒度」や日本酒度と酸度の組み合わせによって分類される「甘辛度」という指標があると思います。

なぜこれらが間違っているかと申しますと、甘味とキレをもたせる物質が他にもあるからです。

甘味を与える物質は、「アルコール分・日本酒度(グルコース濃度)・アミノ酸度」が挙げられます。

キレを与える物質は、「アルコール分・酸度・アミノ酸度」が挙げられます。

人が感じる味については一通りまとめている途中ですので、「楽しい日本酒のテイスティング講座」をご覧ください!

ご覧いただけた方はさらに詳細な情報を得れたのではないかと思います。

つまり、アルコール分やアミノ酸度のことも考えなければ、精度の高い分類はできません。

現存する指標では、甘い辛いをしっかりと見極めるには情報不足なのです。

そのため、甘辛度を発表している日本酒造組合中央会も、この指標によって81%の甘辛が分類出来ると記載しているようです。

甘辛度に変わる精度の高い新しい指標が必要なのか、そもそも千差万別でる日本酒の味わいや種類を分類する必要性がないのか、アミノ酸度をほとんどの蔵が提示していない仕組みを変えるのか。

様々な選択肢がありそうですね。

【新潟が淡麗にこだわる理由】

五百万石のような酒米の開発でも淡麗を意識してきたのだと思いますが、「新潟県」という土地からの観点でも淡麗ということができます。

理由は、

・多くの蔵は軟水で醸している。

・全国平均の精米歩合が67.6%に対して、新潟県は58.7%と大幅に下回っている。

精米歩合が低ければ、お米の外側に含まれるタンパク質などの成分が少なくなるため、綺麗な味わいになりやすくなります。

結果として特定名称酒の割合も全国平均では約34%に対し、新潟県の割合は約68%となっています。

saketakuでお届けした新潟端麗のお酒

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二才の醸(宝山酒造)

爽やかな香りと味わいがとても好評でした!

f:id:smrki228:20200903071732j:plain如空 山廃仕込

爽やかな果実の香りとキレの良い新潟淡麗の「二才の醸」。グッドデザイン賞も受賞しています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回は酒処 新潟の歴史とともに、「淡麗辛口」というイメージが先行している新潟でもコンセプトを変更し、旨口が造られていることを紹介しました。

新潟で造られるお酒は辛口だけではないということですね!

次回は最終回、これがわかれば日本酒好きと言っても過言ではない。

酒造りをする上でとても大事な「麹」「酵母」について。

この違いを知ることができれば日本酒についてもっと詳しくなれます!

「楽しい日本酒講座・全12回」の目次

あなたの常識をぶった切る、日本酒の本当のはなし。

  1. 日本酒の原料について徹底解説
  2. 脱「新潟の美味しい辛口のお酒ください」のススメ
  3. 「日本酒なら大吟醸!おいしいよね。」そんなあなた、損してます。
  4. 安くて美味しい本醸造、教えます。

    「美味しい」と感じる、日本酒の味を分解してみよう。

  5. フルーティな日本酒を徹底解説
  6. 軽快な日本酒を徹底解説
  7. 米の旨味がはっきりしている日本酒を徹底解説
  8. 濃厚で熟成した日本酒の徹底解説

    ようこそ、日本酒のディープな世界へ!初心者卒業までの最後の一歩。

  9. 日本酒のマリアージュの世界へようこそ!
  10. 「山田錦」の味わいや特徴について徹底解説!
  11. 新潟「淡麗辛口」の日本酒とは。知ると日本酒がたのしくなる!(←イマココ) 
  12. 日本酒歴長い人も実は分かってない。酵母や麹の本当のはなし。
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