- フルーティーな香りを感じやすい酒質をおさらい
- 果実のようなフルーティーな香りは酵母が生産している
- リンゴ系の香りの代名詞「カプロン酸エチル」の特性
- バナナ系なら「酢酸イソアミル」の特性
- フルーティーな香りが複合的になるとどうなる?
- まとめ
- 「楽しい日本酒のテイスティング講座」の目次
前回は色に焦点を当てて解説していきましたが、今回からは香りに入りたいと思います。
まずはじめにフルーティーな香りに関してです。
日本酒を好きになり始めた方ほど、一般的にフルーティーなタイプが好きな傾向にあるような気がします。
香りの強さは何によって変わるのか、香りが強い酵母の特性。
フルーティーな香り以外も含んでいると、どのような複合的な変化を見せるのか。
解説していきましょう!
フルーティーな香りを感じやすい酒質をおさらい
業界内では、フルーティーな香りのことを「吟醸香」と呼んでいます。
日本酒を製造するための技術的な教科書を見てみると、吟醸酒や大吟醸酒は「吟醸香」を華やかに感じることが条件としてあります。
吟醸香を感じないお酒には「純米吟醸」とは名付けない方が良いということです。
つまり市販されている「吟醸」と名が付けられている日本酒は、吟醸香を感じることが出来ると考えて良いでしょう。
その他にも、香りを感じやすい酵母を使用しているとフルーティーな香りが強い傾向があります。
ラベルにあえて酵母名を記載しているお酒は、香りの強い可能性がありますのでラベルはチェックして良いと思います。
次に、吟醸香を感じる理由を紹介します。
果実のようなフルーティーな香りは酵母が生産している
酵母は味も作るのですが香りもたくさん作ります。
目に見えない微生物が日本酒の香りと色を作っていると思うと、不思議な感覚になりますね。
果実の香りの強さは、酵母が吟醸香を作れる能力の差によって変わります。
最近では香りをよく出す酵母がたくさん開発されているため、どの蔵でも安定的に造れるようになってきているのが実情です。
果実の香りが強いことで有名なきょうかい18号やM310号はリンゴのような香りを生産する「カプロン酸エチル」を高生産します。
酵母の解説について詳細を知りたい方はフルーティな日本酒が好きなあなたへをご覧くださいね。
代表的な吟醸香について解説していきます。
リンゴ系の香りの代名詞「カプロン酸エチル」の特性
日本酒をよく飲む皆さんなら、一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
アルコール発酵の主経路とも言える「ブドウ糖→アルコール」へ経路が進む途中から生まれる物質です。
先述の通り、糖分からしか生成されないのが特徴ですので「リンゴの香りが強め=甘味を感じる可能性が高い」ということですね。
そのため、原料米にもより多くの炭水化物を必要とします。
炭水化物の量を最大限に得るには、米を磨くことがてっとり早いと思います。
つまり、米を磨いた大吟醸系で多く使用される確立が高い酵母となっています。
加えて酸味が出づらいのも特徴の1つになりますので、できたお酒は柔らかな印象を持ちやすく「飲みやすさ」も感じやすくなっているでしょう。
良いところをメインでお伝えしましたが、カプロン酸にも悪いところはあります。
その状態を、業界内では「カプ垂れ」と呼んでいます。
どういう状態のときに起きやすいかというと、甘味が強くなりすぎることで甘味が口の中でベタつくような印象を持つことです。
加えて香りには、シロップに故意に香料を加えたような悪影響も及ぼします。
バナナ系なら「酢酸イソアミル」の特性
2大香気成分のもう一つ「酢酸イソアミル」。
カプロン酸エチルとは違い、タンパク質由来でバナナのような吟醸香を感じやすくなっています。
酢酸イソアミルの生成経路中、忘れてはいけない存在は「酢酸エチル」です。
酢酸イソが生成経路と同様の経路から生成され、セメダインのような香りを感じます。
カプロン酸エチルをたくさん生成するきょうかい18号酵母も同様ですが、果実の香りを強く感じるタイプの酵母は遺伝子的に変異させて生成しています。
味と相関するところですがイソ系はコハク酸を感じやすくなっています。
コハク酸は温めたときに官能評価が上がる酸味のひとつです。
燗酒にしたときの評価があがります。
フルーティーな香りが複合的になるとどうなる?
さて、ここまで代表的な吟醸香についてご紹介しました。
細かく紹介すると、焼酎などに多く含まれるバラのような香りのフェネチルアルコールなどもあるのですが、日本酒においては濃度が低いため割愛します。
しかし、これらの高級アルコールも含まれていることで単純な果実の香りではない、複合的な香りを感じるのですね。
果実の香りが変化するポイント①アルコール濃度の高低
なぜ、アルコール?と思われる方がいらっしゃるかもしれません。
純粋なアルコールを味見してみると、「甘味・苦味・刺激」を感じます。
そしてアルコール度数が異なるアルコール溶液を飲み比べてみると、全く味が異なります。
18%と15%を比べると、18%のほうが圧倒的に味わいが濃醇になります。香りに「凝縮感」が出ると伝えることが多いです。
15%ではリンゴの香りだったとしても、18%ではメロンやパインナップルなどの「南国系」の香りの印象に近づき、15%などの通常のアルコールは柑橘系に近くなっていきます。
なぜなら、清酒ができた段階ではアルコールが18%程度の原酒になっていますが、水を加えていきます。
水を加えていくことで、凝縮感が薄まり、酸味の印象を相対的に感じやすくなっていくのです。
甘みや凝縮感は水の量の増減に正の相関を示しますが、酸の量は絶対量なので変わりません。
こうしてアルコール濃度の高低によって香りの感じ方も少しずつ変わっていきます。
果実の香りが変化するポイント②酸度の高低
続いては酸度の高さです。
酸度を考えるときは「揮発性」か「不揮発性」かを考えなければなりません。
日本酒に多く含まれているとされる酸の種類は「乳酸・コハク酸・リンゴ酸」がメイン。
その他クエン酸や吉草酸やフマル酸などが微量に含まれています。
ここではメインの「乳酸・コハク酸・リンゴ酸」に分けて考えていきます。
この3種類の中で揮発性の酸は「乳酸」のみ。
「コハク酸・リンゴ酸」は不揮発性です。
つまり、日本酒の香りをとるときに感じる「酸っぱい」ような香りは乳酸によるものなのです。
日本酒に含まれている乳酸の量は銘柄によって異なりますが、全体の半分を占めると言われています。
つまり、日本酒の酸の50%を占める乳酸が持つ比重は重くなります。
乳酸は揮発性のため、酸度が高いほどヨーグルトのような香りの量が増えていきます。
果実の香りとのバランス感で、リンゴやグレープフルーツなどが分かれるのです。
また、「透明な日本酒」でもお伝えしましたが、炭を入れた日本酒の香りは吟醸香が取れ、単調なものになります。
「乳酸・イソアミルアルコール・ソトロン」が残りやすいということが特徴でした。
このように酸度の高さによって香りの強さも異なると言うことをご紹介していきました。
酸があるお酒には清涼感を強く感じるため、爽やかな印象が増します。
他の香りとのバランスがシャープなのか、ソフトなのか。大きく変わっていくのです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
香りの解説としてひとつめの「フルーティー」について取り上げていきました。
果実の香りを示す物質や種類、他の香りとの相関関係など覚えていますか?
中々定着し辛いものではありますが、「このお酒はメロンの香り!」と覚えても全く再現性がありません。
その裏に隠れる発酵経路や特性を習得していくことで徐々にロジックが身についていきます。
少しずつ復習をしながら前に進んでいきましょう!
「楽しい日本酒のテイスティング講座」の目次
日本酒の発酵経路を解説!デンプンから何が出来る??
日本酒の分析値が果たす役割〜ラベルには書かれない「アミノ酸度」がとても大切〜
日本酒と色の関係〜焼き肉と原理は一緒〜
「透明の日本酒」〜蔵人の怒りから大発見が生まれた!?〜
「緑色の日本酒」〜フレッシュなお酒であるほどグリーンに〜
「黄色の日本酒」〜熟成の進行具合〜
日本酒と香りについて〜人は約400種類の香りを嗅ぎ分けられる!〜
「フルーティーな香りの日本酒」〜ベースはリンゴとバナナ。あとは何を足す?〜(←イマココ)
「清涼感があってスッキリとする日本酒」〜ヨーグルトや青竹も爽やかな印象を与えます〜
「ずっしり落ち着いた日本酒」〜油性マジックや蜜蝋の香り?〜
「香ばしい熟成感のある日本酒」〜飴またはカラメル。ときどき紹興酒〜
お米から作っているんだから!「米の香りのする日本酒」
この香りがしたらアウト!「質が良いとは言いづらい日本酒」に共通する香りたち
日本酒の味わいについて〜人は7個の味しか感じられません〜
「日本酒と甘味」〜脳が自然と欲する味〜
「日本酒とうま味」〜うま味も酵母が作る。深みと重みを与える味〜 \
「日本酒と酸味」〜爽やかな酸とまろやかな酸〜
「日本酒と苦味」〜時には深み、時には刺激〜
「日本酒と渋味」〜ポリフェノールはほとんどありませんが、渋いです〜
「日本酒と刺激」〜アルコール?酸味?刺激を与える要素たち〜
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